大江麻衣『昭和以降に恋愛はない』
「新潮」の今月号を古川日出男の新作目当てで買って、大江さんの詩にぶちのめされた。読んでいて、あまりによくて、ふにおちて、とても悔しくなる。私には詩の才能はないけれど、もし私に詩が書けたならば、こんな詩を書いてみたいと思うような、そんな詩です。ほんとすごいので、新潮サイトの立ち読みで、是非。
http://www.shinchosha.co.jp/shincho/tachiyomi/20100607_2.html
「ライブテープ」松江哲明監督
ぐわっと、きた。
初めて聞く歌なのに、何でこんなにわしづかみにされちゃうんだろう。ぐしゃぐしゃの鳥の巣あたまで、タモリみたいなでっかいサングラスをかけて歌う前野健太さんが、何でこんなにかっこよく見えるんだろう。
あれ、何でちょっと泣いちゃったりしてるんだろう。
「ライブテープ」は、2009年1月1日に、吉祥寺で撮られた。吉祥寺だよ。気づいたら、私がもう10年近くも遊びに行ってる街だ。そう、ここで他愛もない話をしながら行列に並んだっけね。はじめてナンパされてびっくりして逃げだした通りだね、ここは。ああ、あそこはこの世が終わるのではないかと思うぐらい落胆して歩いた池のほとり。たくさんの見覚えのある風景がそこにはしっかりと映っていて、その奥には10年分のいろんなことがつまっている。
前野さんがギターをがしがしかき鳴らして歩く吉祥寺は、そんな私の吉祥寺なんだよ。でもたぶん、吉祥寺に行ったことがない人にとっても、うわっと思える瞬間が、きっぱり映ってる映画だと思う。うまく言えないけれど、鳥肌がたった。
吉祥寺バウスシアターで14日まで上映中。うあっとなりたい人は、見てください。
「わたしたちは無傷な別人であるのか?」チェルフィッチュ
とても楽しみにしていたチェルフィッチュの公演、横浜美術館にて。
土曜日、朝4時前に起きて、始発でニューバランスの復刻ものを買いに行き、あんまりぶっちぎりに1番に並んでしまって約6時間後に途方に暮れた顔で1300を握りしめて帰ってきて、嬉しいのか悲しいのかちょっとぼんやりしているdと一緒に出かける。
以前に「フリータイム」をTVで見たことがあって、いったいその場で見たらどうなるんだろう、と思ってたんだけれども…
何回か、寝ました…。
あんまりにゆっくりとした間、抑揚のないしゃべり方、意味のないようなゆったりとした動き。ここ最近、とても”演劇らしい”動きや声や効果音に慣れていたせいもあるのかもしれないけれど、ぱっと見て「おもしろい」というようなお芝居では、決してない。でも、「つまらない」かと言われたら、そうでもないところが不思議な感じ。
物語は、タワーマンションを購入して入居を待っている夫婦のもとに、奥さんの後輩の女の子が訪ねてくる一日をたんたんと見せていく。「そこに、男の人がいます。その男の人は幸せな人です。」というセリフが、いろんな人物によって何度もくりかえされた後、「なぜその男の人が幸せなのか、この『わたしたちは無傷な別人であるのか?」というお芝居はそれを解き明かそうと思っているからなのです。」と突然セリフに対する第三の視点が持ち出されたりするところは、すごくスリリング。突然ふつうの演劇みたいにセリフを喋り出す場面もある。そういう場をあいまいにして、人称を溶かすような手法は、とてもおもしろい。でも、それを劇場でやると眠くなる。まわりも、結構みんながっくんがっくん眠っていて、こんなに人が眠る劇ははじめて見たよ、というレベル。
でも、そこにある”言葉”はとても素敵だった。たんたんとした文章が続いた後に、はっと切りつけるみたいな鮮やかなフレーズが入ってくるその存在感!ふだん本を読んでいて、あっ!と立ち止まるような瞬間を、舞台の上でも再現できるんだなあというのは発見だった。と、書いていくうちにおもしろかったことは書けるんだけど、でも寝ちゃったんだよなあ、という事実も一方にはあって。なんだろうなあ。あと数年後、寝ちゃったことすら忘れかけたころにまた見たいなチェルフィッチュ。
とか思いながら、中華街に行ってビールを飲んで中華を食べて帰ったのでした。でもチェルフィッチュで寝ちゃった件がショックで、ビール飲むまで悶々としちゃったよ…。
読書録
『世紀の発見』磯崎憲一郎
- 作者: 磯崎憲一郎
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『「空気」と「世間」』鴻上尚史
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『使ってもらえる広告』須田和博
使ってもらえる広告 「見てもらえない時代」の効くコミュニケーション (アスキー新書)
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『モンキービジネス 2010 Winter vol.8 音号』
- 作者: 柴田元幸
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- 作者: 伊藤計劃
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うわ、これ、おもしろい!!
近未来、アメリカの極秘舞台で暗殺を受け持っている軍人が主人公。近未来のバキバキに情報化された世界と、あんまり変わらないピザとビールの日常のミックス具合が、ああ、ほんとこれ、ありそう…と思わせる。世界を股にかけてスマートに暗殺しまくる主人公と、いつまでたっても取り逃がしてしまうある男の追いかけっこ。
ぎゅーっと押し寿司のように思想や知識がちりばめられた哲学的な面もあり、ばさばさ暗殺しまくるアクションものでもあり、人間の弱さを繊細な感覚で描く脆さもあって。がっと一気に読んでしまう力強いストーリーと、びっくりするラスト。
伊藤計劃さんが、もう亡くなってしまっている、というのが本当に惜しい。もっとすごい小説を書いてくれただろうに。でも、あと2冊の残された本を読むのが楽しみでもある。