『話の終わり』リディア・デイヴィス

話の終わり

話の終わり


岸本佐知子さん訳につられて。


出会ってつきあってふられて、という時間を何ひとつ欠かすことなく全部書こうとする話。でも、書けば書くほど現実がひらひらと逃げていくような感覚がまとわりついて、あーその感じ、わかる!と思う。


昔から私には、文字に書いて気持ちを整理するというクセがあって、恥ずかしくて読み返せねえよ!みたいな日記やらが時々ハードディスクの片隅から出てくる。(ロンドンでは「恥ずかしい日記朗読会」がブームらしいけれど、私も恥ずかしさでは負けてない自信がある…)


その言葉たちは、確かに私の言葉なのだけれど、たいがい、あれっと思う。


たぶん、永い時間がたってしまったために記憶がすてきに上書きされていたり、その後起こった出来事によって私の意識が変わってしまったり。一度起こったことは変わらないと思っているけれど、実はそんなもんあやふやですぐに正解なんてなくなってしまうのだよなあ。


時間が本当を曲げてしまうというのもあるけれど、書いているうちに、言いたいことが変わってしまうこともよくあることで。緻密に書こうとすればするほど、緻密さとは程遠くなってしまう、徒労感が、にじんで、ゆがんで。