「21g」アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ

とてもとても上手くできた映画。この映画について書こうとすると、どうしてもネタバレしそう。
近年、時間軸を一度ばらばらに分解して組み立て直す(もしくは、リバースさせていく)という手法の映画が増えているけれど、この映画ほどスリリングに組み立てている映画はないんじゃなかろうか。時間がぽんぽん前後して、最初は人物とエピソードが交錯しすぎて追いつくのがやっと。だから当然ものすごく集中して画面に向かうことになる。人を長時間集中させるというのがどれくらい難しいことなのか、ちゃんとわかった上で仕組んでいる。監督はとても頭の良い人だ。ラスト間近になって、はじめてストーリーが頭の中で組み立てられて、ぐっと迫ってくるカタルシス!すげえ!とストーリーとは別のところで関心した。
ストーリー自体も強度のあるしっかりしたもの。広告ではまったく触れられていなかったけど、「臓器移植と、移植後の患者の性格変容の問題」「犯罪と宗教の関係性」「不妊治療への夫婦間の齟齬」なんていう、それだけで客をじゅうぶんに引き付ける問題をはらんでいる。広告はスタイリッシュすぎなんじゃなかろうか。劇場にはオサレな若者が多かったから、尚のこと心配になってしまう。もっと高年齢層(つかオッサン)までターゲットにできる映画なのに。もったいない。マーケをちょっとかじったので、そんないらない心配までしてしまう自分。
映像もとても美しい。ざらざらした質感のあるニューメキシコロケのシーンがとてもいい。匂いまで伝わるような。夕暮れ時に鳥がばあっと羽ばたくシーンが目にやきついた。こういう何気ないのに美しいシーンを美しく撮れるってのはスゴイことだ。
ほんとうに良い映画だった。これ、構成が複雑すぎなので二回目見ても絶対楽しめるよなあ。ビデオ化されたら絶対見てしまいそうだ。