『グランド・フィナーレ』阿部和重

グランド・フィナーレ

グランド・フィナーレ

一読して、「阿部さんに芥川賞をあげるのに、いったいぜんたいなぜこの一本でなくてはいけなかったのか?」という疑問が湧いた。正直に言って、阿部さんの短編の中では出来がいい方ではないと思う。モチーフとなっている、ロリコン男というネタも『シンセミア』の方がよっぽど印象的に使われていたし。阿部さんの小説にしては、小道具やら舞台やらがイマイチもさいし。何より物語に疾走感がたりない。やらしいぐらいに煽る阿部節も影をひそめているし。なんだかまるくなったな、という感じの小粒の一遍である。もはや文壇の権威としての意義が薄れている芥川賞と、その選考委員たちには、これぐらいのユルさがここち良いんだろうか。だとしたら、なんとも悲しい。ロリコン男、という題材自体は愛知の事件の後ということで、非常にタイムリーであるけれど、文学はニュースではないからなあ。
一方で、同時収録の『新宿ヨドバシカメラ』という掌編はとてもいい。私が街小説好き、という点をさしおいても。ぴしっとしまりのある文体と、卑猥なイメージと、文献の引用と、それらがぴんと張った糸のようでいて絶妙なコンビネーションで新宿の街の像を結ぶ快感!雑誌掲載時にはこれに森山大道の写真が入っていたなんて、すごく贅沢。うーん。写真込みで一回読んでみたい。