『サウンドトラック』古川日出男

サウンドトラック

サウンドトラック

古川日出男はやっぱり東京を描くのが上手い。しかも早稲田中退なので、私が見知った顔の街が多く登場する。この本は近未来小説なので、今とは微妙にズレた街の風景が描かれている。けれど、それは今の東京を歩いてめぐっている人の描く風景だから、妙にリアリティがあったりする。今回登場する主な場所は、神楽坂、大久保、西荻窪。うまいこと今ある街のカラーを、極端に色づけして書き上げたような未来の街は、それはそれで散歩してみたいと感じてしまう出来。うまいなあ。スピーディで独特の語り口は、ちょっと村上龍風味であったり春樹的であったりする。古川節にまできちんと消化しているけれど。そもそも、この物語は村上龍コインロッカー・ベイビーズ』へのオマージュとして想起されたんではないか?という疑問を抱いたのだけれど、どうなんだろう。捨て子の2人が世界に復讐を誓う、という大きな物語はモロだし、それが暴力的な方法によって行われるところも。あの、読み出したらとまらない!どうしよー!という魅惑的なストーリー展開まで絶妙にリミックスされていて、書き手のしたたかさと力量に感心もする。いやはや、古川さんにすっかりハマったな。