「ミリオンダラー・ベイビー」クリント・イーストウッド

アカデミー賞4部門受賞の今年の目玉(なのかな)。ボクシングを題材にして、師弟関係という濃密な人間関係を描く。ボクシング映画だと思っていたら、そうでもなくて。なんとなく、川上弘美の『センセイの鞄』を思い出した。ずっと年が離れた先生と、もう若くはない女。ふたりの間にあるのは、恋ではなくて、もっとあやふやで強い感情。恋と呼べたらもっと楽なんだろうな、と思うような濃い想い。ああいう関係は見ている方もちょっとツライのだな、と改めて思った。
私には、師匠と呼べるような人は一人ぐらいしか出会っていない。しかも、何を教わったというわけでもないけれど。ただ、いろんな話をした。あの人に会わなかったら私は文章を生業にしていなかったかもしれない。ずっと年も離れていたけれど、濃い関係だった。語り口はゆったりしていたけれど、とても早いテンポでやりとりされる知識と思想。なんだか、ボクシングの練習に似ていなくもなかった。のかもしれないと思う。現実は映画ほどドラマティックではないので、感動のフィナーレなんてなかったけれど。