『博士の愛した数式』小川洋子

博士の愛した数式 (新潮文庫)

博士の愛した数式 (新潮文庫)

高校時代、私は文系なのにかなり数学が好きだった。というのも、数字はすぱっと割り切れるし、数式をきちんきちんと積み立てていけば、いつかは正解へ導いてくれるからだ。余計な知識はいらないし、自分がもっている技を組み合わせて戦っていくような感覚が快感だった。最近ではすっかり数からは遠く離れていたけれど、この本を読んでその頃の感覚をすこし思い出した。
80分しか記憶が続かない年老いた数学博士と、家政婦さん、そしてその子供。3人のふれあいは、数字を通してほんわかと進んでいく。数字というのは、いつだって正しいし、裏切らない。だから3人のかすがいに成り得る。そう読んだ作者は賢明。記憶があったって確かなものなんてほとんどない人生において、ささやかだけれども大切なことを、数字がこっそりと教えてくれる。そういうお話。これも映画化されたようだけれど、出来はどんなもんだろう。