なぜあなたの文章はほめられないのか。(『案本』山本高史)

とてもいい本だったので、一気読み。しばらくたったらまた読む。
トヨタカローラの「変われるって、ドキドキ」の名コピーを書いた山本高史さんの本。
新人コピーライターちゃんに語りかけるつもりでばばばと書いてわたして青臭く語ってみたりしたのだけれど、伝わったのかなあ。伝わっていたらいいなあ。

 トヨタ資生堂オリンパス錚々たるクライアントをたくさん抱える山本高史さんも、新人の頃はてんで書けなかったらしい。だからほら、気を落とさずに書いてみなよ。でも、山本さんは羊の皮をかぶった狼かもしれない。“経験”できないやつは、いつまでたってもほめられるようにはならないよって、こっそり言ってたりするんだ。
 

 “経験”するってことは、ただ漫然と生活することじゃない。山本さんは何度もいう。たとえば、防犯セット錠は玄関の鍵をかけるだけでセキュリティがかかるので便利らしいという事実を聞いた。それをそのまんま書くのは、誰だってできる。プロとしてお金がもらえるレベルじゃない。そこで、じゃあ赤ちゃんがいる若いお母さんが出かける時ならどうだろう。一人深夜に帰宅して、くたくたになった一人暮らしの男性ならどうだろう。って、考えを深めていけば、文章はぐっと真実味をおびていく。
 

 そのためには、たくさんの“経験”が必要だ。かといって、別に世界一周してこいとか無茶なことは言われてない。普段の生活の中で、どれだけ考えるクセをつけられるかが、勝負だ。会社が寒い→冷房費がもったいない→この寒さをエネルギーに変えて、氷とか作れないか→やっぱ無理か。とか、果てしなく下らなくてもかまわない。誰かにほめられる文章は、きっとそんな下らない思考ゲームの先にある……はずだ。とにかく考えない=知らないよりは、ずっとずっと有益だ、と山本さんも言ってた。多分。


  だからさ、“経験”してみてよ。とにかくたくさん。くだらなくたっていい。すぐ役にたたなくてもいい。全然。今の自分から毎日はみ出ていかなくちゃって気持ちでもって。そうでなくちゃ、いつまでたっても、スタートラインのままだ。