『死の棘』島尾敏雄

死の棘 (新潮文庫)

死の棘 (新潮文庫)

5ページに一回ほどの割合で、涙が出そうになる。帰りの電車の中で読み始めて、蒸し暑い東京を走り抜けて、高円寺に帰り着くまでに10回は涙ぐんでしまった。
小説家と、その妻、ふたりの子供たち。東京の東のはしっこで平凡に生きていたはずなのに、ある日ぷつりと糸が切れてしまった妻。浮気をしつづけていた夫との、終わらない問答。繰り返される息苦しい戦い。ひとりの人とずっと一緒に生きていく、と決めることって、こんなにも重いのか、と飽きれるぐらい。そして、その素直さがすこし羨ましいぐらい。ぎりぎりの状態で続くせめぎあいは、読んでいて苦しいけれど、目を離せない気迫に満ちている。怖いもの見たさにも似たような気持ちで、読み進めているところ。ああ、すごい。久しぶりに小説にぞわぞわしている。