「めがね」荻上直子監督

新宿で、初日舞台挨拶付の回に行ってきました。すごく久しぶりに、映画館に行く前に券をちゃんと買ったよ。しかも早起きしてチケットぴあで買ったよ。


と、気合を入れて臨んだ映画は、気合なんて何処吹く風、といった感じ。なにもない、とか、なにもしないとか、昔は当たり前のように出来ていたはずのこと。東京では、どうしてこんなに忘れてしまうんだろう。ちゃんと朝起きて、運動をして、丁寧に作った美味しい朝ごはんを食べる(「かもめ食堂」に引き続き、今度もめちゃくちゃにごはんが美味しそうで、お腹がぐーぐー鳴った。隣の女の子も鳴ってた)。本当にシンプル。そして、絶対的に気持ち良さそう。押し付けがましくないやり方で、ほらほら、忘れてませんか、と言われた気がする。


私が生まれたのは、北陸の小さな都市で、自転車で少し走ればなにもない風景が当たり前のようにそこにあった。そんな風景を、私は憎悪していた。憎む、という言葉がいちばんしっくり来るぐらい、ものすごく嫌いだった。退屈で、どこまで行っても平坦で、代わり映えのない毎日がどこまでも続きそうな息ができない風景。東京の郊外とも違う、みじめな地方都市の風景。人通りのない大通り、タイルのはげた歩道、絶妙に時代遅れの看板。


東京に出てきた私は、だから狂喜した。見るものすべてに、圧倒された。24時間いつ外に出ても、今日は祭か?ってぐらいたくさんの人が歩いていたし、いつでも最新のニュースが手に入ったし、珍しいものはすぐそばにあった。退屈とは無縁の世界。すばらしい!私は、東京のスピードをいっぺんに好きになってしまった。でも、なぜだろう。数ヶ月に1回、私は何かの病気か?てぐらいこんこんと眠るようになった。一回眠ると、まる一日は起きない。電話がかかってきても、同居人が覗きにきても、読まれない新聞がたまっていても。


この映画を見ていて、なんとなく、どうして私がそんなに眠ってしまうようになったのかわかった気がした。あ、そうだよね、って感じで。今、私はもうあんまりとっぷり眠らなくなったけれど、まめまめしく東京を遊びまわることも少なくなった。情報もセーブして、余計なものをそぎ落とすようになった。生きていく知恵、といえばかっこよすぎるかもしれないけれど、そんなものを、一回立ち止まって考えさせられるような。そんなすてきな映画でした。


で!舞台挨拶は、もたいさんがめちゃくちゃに素敵でした。いや、映画の中でもとびきり素敵なのだけれど、生もたいさんは、おかしくてあったかくて、おにぎりにぎってくれそうな、素敵な雰囲気のひとでした。ああいう年のとりかたがしたい。