古川日出男×岸本佐知子トークショー@三省堂・神保町

聖家族

聖家族

今、私をいちばんドキドキさせてくれる作家古川日出男と、今いちばん笑わせてくれるエッセイを書く岸本佐知子トークショー、ということでものすごくわくわくしながら出向く。二人とも文章でしか知らないので、どんな話し方をするのだろう?と、そこも楽しみだったけれど、文体そのままの話し方で、ちょっとうれしくなってしまう。古川さんは、たたみかけるようにグルーヴィな語り口。岸本さんは、のんびりと、でもときどきはっとするようなおもしろい言葉を発するところはエッセイまんまだ!古川さんが、記憶するときにその人の顔ではなく、シーンとして覚えているので、ぱっと見わからなくてもふとその人がかがんだ瞬間にああ!と思い出したりする、といったときに「それって形状記憶…記憶ですね」と岸本さんがかえしたのには笑った。すごいなーなかなかでないよ形状記憶記憶!


聞いていて感じたのは、古川さんは”書きたい”というよりも”伝えたい”という部分にほんとうに強く意識をもっていってるということ。「一年に3冊とか出してしまうと注目されないから、今年は『聖家族』のための年にした」とか、「この一冊を読んだら参考文献として、昔の本へと手がのびていくように、すべてのもてるワザをつぎこんだ」とか、「この本を読まれるものにするために、10年目というアニバーサリーは必然だった」とか。もうほんと、広告キャンペーンを組み立てるような感覚で、書いているのだなとわかって驚く。


あとは、言葉へのこだわりよう。岸本さんの「地の日本語は細い明朝になっていて、東北弁が太ゴシックで書かれているけれど、この地の文って翻訳なんですね」っていう指摘にすごく嬉しそうに「そうそう!よくわかりましたね」とか答えていたけれど、あーそうなのか!と聞きながら興奮する。古川文体の中では、ときどき出てくる太ゴシックの部分は、覚醒してとびだしてしまったもの、みたいに捉えていたけれど、ほんとうはそっちのテンションが本筋で、地の文が押し殺されていたものだったのか!という発見。古川節を体験したことのない人にはわけがわからない興奮ですいません…。


それから、迫害された言葉への愛の話がとても印象的だった。たとえば、亀という字。「旧字の龜っていう字、これはもう横たえるとカメそのものに見えるわけですよ、でもそこを書くのがめんどうくさいからって亀って簡単にしてもともとあった意味を殺してしまう。オレはめんどうでもなんでも龜って漢字が愛しくてしょうがないんですよ」って熱く語っていて、うわーうわーとつきささった。古川節の言葉が独り歩きしてゆく感覚というのはこういうところから生まれているのか!


とか、私にとってはものすごく「ぎゃー!」「うわー!」な1時間ちょいの対談だったのですが、なかなか伝えるのが難しい…。ちなみに会場には書評家の豊崎由美さんもいらしてました。若い読者が多いかと思っていたけれど、20代3割、30代3割、それ以上3割ぐらいと意外とアダルトだったのにびっくりしたなあ。最後に、古川さんにサインをもらって「サマーバケーションEPみたいな本をもっと書いてください!」とかちょっぴり話して、おしまい。何かもっと言いたいことがあったように思ったのだけれど、いざ目前にすると頭まっしろに。ってアイドルのサイン会か!と突っ込みたくなるけれど、本当に今いちばん好きな作家さんなのだもの…あ、握手してもらうの忘れた!


そして来週は青山ブックセンター六本木店でのイベント、今月下旬にはタワレコでのイベントと盛りだくさん。まだまだ今月は古川さん追っかけするぞ。