甘い匂い

久しぶりに会ったその人からは、なんだか甘い匂いがした。夏の匂いにも近いような、甘ったるい匂い。バニラの甘さというよりは、ウィスキーの甘さに近いような。ああ、こんな匂いをさせる人だったっけ、と思いながら他愛もない話をした。そうだった、私はこの人の目を見て話すのが苦手だったんだとそこで思い出した。思い出したらやっぱり目を見て話せなくなってしまった。
思い出は、ふとしたことで蘇るけれど、私の場合それは匂いであることが多いかもしれない。思い出が匂いによって現実感を増すような感覚。祖父は嗅覚がちかごろまったくなくなってしまったという。そんな風になったら、どうやって思い出を再現すればいいだろう。
甘い匂いはなかなか強力で、今日の私は寝不足もたたってぼうっとしたまま一日を過ごしている。