『東京飄然』町田康

東京飄然
大学時代、私は散歩サークルに入っていた。「何のサークル入ってるの?」「散歩サークル」なんだか哲学的なようなやりとりの後には、苦笑があったり、ものめずらしそうな視線があったりした。たぶん、サークルとして散歩する、という現象がよく理解されなかったのだろうと思う。今、私が散歩サークルの会員ならば、「町田康の『東京飄然』のようなことを、みんなしてやってるサークルです」と説明してみる。たぶん、あんまり反応は変わらないのだろうけど。
私たちは、授業の合間を縫って(というか、授業ほったらかしで)よくあてもなく歩いた。早稲田から出発して、神楽坂まで歩いたり、鬼子母神方面へ向かったり。お腹がすいたらどこか適当な店に入ったり、買い食いしたり、のどが渇いたらカフェオレを飲むか、ビールをあおるか。まさに飄然。
町田氏が歩くのは、「早稲田〜(都電経由)飛鳥山」「鎌倉〜(江ノ電経由)江ノ島」「新橋〜銀座」「高円寺」の4つのコース。全部行ったことがある、というかぶらぶら歩いたことがある街ばかり。あの饒舌な妄想だとか戯言だとかにまぶされて、ふしぎとくっきりと街の輪郭が浮かび上がるのが楽しい。きっと、歩いたことが無い人に比べて、200%ぐらい楽しい。と同時に、最近ちゃんと散歩してないな、とちょっと反省。ちゃんとした散歩、というのもおかしいけれど、肩の力を抜いて、足のむくまま。寒いからって縮こまってないでちと歩きに出かけませんか。