隣のわかもの

ひとりでごはんを食べているとき、ひとりで電車に乗っているとき、わるいとは思いながらも、うっかり耳に入ってくる隣の話題。うっかり聞き入ってしまうこともしばしば。というか、おもしろそうな話であったら、こっそりiPodをオフにしちゃう。


で、こないだ定食屋でひるごはんを食べてた時のこと。隣に座っていたのは、20台前半ぐらいの男の子二人組。なまりがまだ抜けきらない話し方からすると、どこか地方から上京して間もないのかもしれない。


「つーかさ、どうやったら広告業界に入れるのかね」
「経験者のみってとこばっかだもんな」
「でもコピーライターって6万人ぐらいいるらしいぜ」
「まじで?うちの県の市ぐらいいるじゃん。すげーなー」


なんて話をしてるので、思わずアドバイスしたくなったぐらいだ。というか、コピーライターで食べてる人は6万人もいるのか!?経験値からすると、1万人ぐらいじゃないかと思ってるのだけれど。まあいいや。で、私がもぐもぐとつくね定食を食べてる間にも話は続く。


「最近さ、バイトの休み時間に東京タワーによく行くんだけどさ」
「へー」
「なんか、ぼーっとタワーの下でタバコ吸ってるとさ、俺何してんだろってすげー落ちるわけよ」
「あーわかるわかる」
「でさ、俺何してんだろ…って考えてるうちに、でもこんな風にいろんな仕事してふらふらしてられんのは今しかないよな!間違ってないよな!って気がしてきてさ。今は何がやりたいか探す時期なんだって」
「だよなーほんと今だけだよな」
「正社員なんてさ、30までになれればいいわけで。まーこんなのもわるくないよな、って思えたところで仕事に戻るんだけどさ。毎回昼休みにはその繰り返しw」


って、絵に描いたようなふらふらした若者然とした会話を、ほんとうに真剣に語っていたので思わずつくねをつるりと取りこぼしそうになった。おいおい大丈夫かわかもの。しかも、さっきまで「広告やりたい」「亀梨くんみたいになw」とか言ってたじゃん!もっとガツガツすれば、いくらでも入り込めるのに。もっと頭をひねれば、きっと何とかなるのに。でも、彼らは行動しないんだろう。毎日バイトに通って、悩んで、タバコをふかして、笑って、発泡酒を飲んで眠りにつく。それを繰り返してる間にあっという間に年をとることに目をそむけたままで。って、本当にわかりやすーい道筋が0.5秒で私の頭の中をよぎるぐらい、悩みすらステレオタイプだ。うあーもやもやする。あーなんでそんなに無責任に楽天的なんだ。きっと、後輩がこんなこと言ってたら説教しちゃうんだろうな…とか思いつつ、席をたって仕事場へと帰ったけれど。彼らはやっぱりしんなりした顔で、タバコをぷかぷかふかしてるだけだった。何だかなあ。