読書録

『世紀の発見』磯崎憲一郎

世紀の発見

世紀の発見

日常がぐらっとする瞬間を書かせたら日本一の磯崎さん。ぐらっとしたー。短いし、ぱらっと読めてしまうのだけれど、じわじわーと余韻が広がる感じがして、また何度も立ち戻って読みたくなる。こういう感じを受ける小説って、なかなかないな。


『「空気」と「世間」』鴻上尚史

「空気」と「世間」 (講談社現代新書)

「空気」と「世間」 (講談社現代新書)

鴻上さんって、こういう新書も書いてる人だったのか…!と知ってなんか軽くショック。高校時代にはじめて読んだ戯曲は鴻上さんの「ハッシャバイ」でした。で、最近の「空気読め」っていう空気が、今までの「世間」の肩代わりをして私たちに圧力かけてきてるよね、まったく生きづらいね、みたいな話。いじめられてる子どもたちに読んでほしい、と書いてあったけれど、読んでて憂鬱な気分になったなあ。


『使ってもらえる広告』須田和博

これからの広告はクリエイターのつくる「芸術」じゃなくて、「使ってもらえる」ものじゃないといけないよね、というのをWEBの世界での実践をもとにひもといている。確かに、不動産広告業界でもここ何年かがらりとウケる広告が変わってしまって、「WEBもやればいいのにー」って毎日のように言われてる。世界はどんどん動いてる。広告もどんどん動いていかなくちゃな。


『モンキービジネス 2010 Winter vol.8 音号』

モンキービジネス 2010 Winter vol.8 音号

モンキービジネス 2010 Winter vol.8 音号

今回のモンキービジネスも、楽しい企画がいっぱいで満足。Comes in a Boxという作家さんの「黒いベル」がとてもよかった。ブローティガンみたいな、静かでなんかちょっと悲しいようなお話。ベルを埋めるシーンが、じわじわとよい。ブローティガンといえば、ずっと翻訳をされてる藤本和子さんも初登場!やっぱりしみじみと良い文章。もったいないのでゆっくり読んだ。


虐殺器官伊藤計劃

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

SFものはあんまり読まないけれど、青山ブックセンターでゴリ押ししていたので、ふと手に取ってみた。


うわ、これ、おもしろい!!


近未来、アメリカの極秘舞台で暗殺を受け持っている軍人が主人公。近未来のバキバキに情報化された世界と、あんまり変わらないピザとビールの日常のミックス具合が、ああ、ほんとこれ、ありそう…と思わせる。世界を股にかけてスマートに暗殺しまくる主人公と、いつまでたっても取り逃がしてしまうある男の追いかけっこ。


ぎゅーっと押し寿司のように思想や知識がちりばめられた哲学的な面もあり、ばさばさ暗殺しまくるアクションものでもあり、人間の弱さを繊細な感覚で描く脆さもあって。がっと一気に読んでしまう力強いストーリーと、びっくりするラスト。
伊藤計劃さんが、もう亡くなってしまっている、というのが本当に惜しい。もっとすごい小説を書いてくれただろうに。でも、あと2冊の残された本を読むのが楽しみでもある。